gentleoneの個人的マンガ評価

20年間大量のマンガを読み、蓄えた知識を半自分のために評価していきます。

『かぐや様は告らせたい』レビュー

かぐや様は告らせたい

 

  • 画力「3点」
  • ストーリー「4点」
  • キャラクター「4点」
  • テンポ「3点」
  • 世界観「3点」
  • 総合「17点」

画力

 明らかに上手くはない。のだが、ジャンルがラブコメであることと、謎の愛嬌と説得力のある絵で私に無理矢理評価を1点上げさせた。

 シリアスなシーンでは画力のなさが若干浮くものの、アクション描写が多いマンガでもないため許せる。女の子の可愛らしさ、男の子の格好よさはきちんと表現できているため十分とはいえる。

個人的最優シーン。この画力でよくこの悪夢っぷりを表現したものだ。

ストーリー「4点」

 かぐや様とは言うものの、竹取物語かぐや姫)との関係は名前の由来程度。一応設定上、竹取物語が事実だったという世界だそうだが、本編とほぼ関係はない。

 基本的には、全国トップクラスの成績を持つ生徒会長の白銀と、世界的財閥である「四宮グループ」の令嬢で、あらゆる方面に才能を広げる副会長のかぐやが恋愛の主導権を握るべくお互いに相手に告白させて付き合おうとする話。

 特徴はコメディとシリアスの連続で構成されるストーリー。恐るべきことに本筋の恋愛描写は大体コメディパートで消化され、シリアスパートでは各キャラにフォーカスが当てられ、それぞれ自分の過去や未来と向き合っていく。

 シリアスパートであるキャラクターの恋愛がスポットされるのだが・・・あまりにもドロドロすぎて絶望した読者多数。その話の主人公は屈指の人気キャラであり、またヒロインもカラッとしたキャラだと思われていたため、かなり絶望的。私は妹と共に「幸せになってくれ」と何度も言い合ったものだ。

 ラブコメパートはコメディが多めで、「会長が何か画策する→妖しい笑顔でかぐやに「お可愛いこと・・・」と馬鹿にされる想像で動けない→会長の行動を巧みに操っていたかぐやが焦れる→何か事件→二人が照れあって痛み分け」がいつもの流れ。なお会長とかぐやの立場は度々入れ替わる。

 詳しくはキャラクターの項目で語るが、基本的に全キャラが何かしらポンコツであるため一話で展開が二転三転する。前エピソードで成長を見せたと思われたキャラの成長をガン無視して無かったことにするというイカれたギャグを見せることも。

 直接的に性的な描写はないものの、青年誌であるため下ネタは時々飛び交う。しかしディープな話題ではなく、性行為をすることを「神った」などと意味のわからない隠語で濁したり、「セッ・・・」とあと一歩が言えないなど、高校生らしい可愛らしい程度のもの。特に男子組の下ネタは謎にリアルで、高校時代を思い出した。

キャラクター「4点」

 男子組はかっこよく、女子組は可愛らしく描かれているため、基本はきちんと押さえてある。女子組の属性分けも比較的容易で、かぐやはツンデレ、藤原は不思議ちゃん、伊井野は真面目系と、単純かつ個性的ながらも被らない。

 ・・・のだが、ほぼ各キャラに濃すぎるキャラ付けがされている。生徒会メンバーだけ紹介しておくとしよう。

 主人公の白銀御行は、優れた才能は持たず、貧乏な家でありながらも激務と言われる秀知院学園の生徒会長を務め上げるほどの人望の持ち主。その人望はひとえに学内試験常に一位、全国模試で2位という驚異的な学力によるもの。

 と、こう書けば真面目な青年だが、彼の真面目さは度を超えている。登下校に2時間、毎日勉強を10時間、そして貧乏ゆえのアルバイトの時間や授業時間(私の高校時代は授業時間だけでも9:00〜16:30の7時間半)、生徒会活動(部活と同じであれば一般的に18〜19時程度までなので、約2時間程度)。なお、白銀は少なくとも物語途中まで無遅刻無欠席である。寝てる?なお、藤原との特別訓練や資格勉強なども行っているため活動時間はまだ伸びることもある。

 このような狂気とも言えるレベルの努力をするのは、ただかぐやと並び立つためだけである。漫画が漫画ならかぐやのストーカーキャラとして出る可能性もあったと考えると、彼は漫画に恵まれた。

 ヒロインかつもう一人の主人公、かぐやは文武両道、才色兼備の天才。白銀とは異なり、才能で片づけられているので(幼少期からの習い事や自主練はある程度しているのだろうが)白銀とは反対に、努力の描写はあまり無い。後輩への面倒見も良く、想い人である白銀に対しては素直になれない一面もある。

 彼女の実家は四宮グループという財閥であり、その娘である彼女は超弩級のお嬢様である。陰謀渦巻く世界で生きてきた彼女は、他人を駒として考える歪んだ人間になっていた(本編で「氷のかぐや姫」と呼ばれていた)のだが、白銀によって今の割と朗らかな人間へと変わる。

 ・・・のだが、中盤で「氷のかぐや姫」がある程度独立した人格であることが発覚、度々行われる脳内会議の他にも肉体を乗っ取って主人格となったこともある。また、人格の中には幼児の人格もあるため、漫画内ではデフォルメされているが、ある程度肉体的に成長し終わった高校生女子が3歳児のような舌ったらずな話し方と人格で話しつづけるというかなりホラーな状態になったことも。ギャグ漫画でよかった。

 そして本作の最終兵器、藤原千花。当初はゆるふわ美少女として描かれていたものの、徐々に彼女の奇行が強調されるようになる。一人でニンニクマシマシのラーメンを完食し、ダイエット中にタピオカミルクティー(ラーメン一杯分程度のカロリー)を常飲するのは序の口、ゲームに勝つためにイカサマを顔色ひとつ変えずに実行する、ある目的のために男性器の俗称を連呼する、将来の夢は総理大臣(真顔)と、非常にエキセントリックな人物であることが露呈していく。

 そのあまりに奇怪な性格から、かぐやが白銀とのデートを計画した時には「対象F」とコードネームまで付けられて恐れられていた。ある意味真のラスボスかもしれない。

 一年生組の石上と伊井野は2年生組の三人に比べておとなしいが、石上は留年が見えてきたテストの前日にゲーム三昧、伊井野は堅物が過ぎて校則で全男子生徒を坊主頭にしようとする(しかも後に彼女が坊主頭フェチであることが発覚。学園の私物化じゃん)など、とてもまともとは言えない。

 一応、彼らも全員が本質的にいい子であり、あまりヘイトが向くことは無い。

 ただ、読者と作者の認識のズレが散見される。最たる例は大仏(おさらぎ)こばちというキャラで、彼女は大きな丸眼鏡をかけた地味顔のキャラなのだが、何故か彼女に美人設定が与えられている。作中の扱いを見るに、当初はネタのひとつとしての設定だったようなのだが、「滑ってる」「いらない設定」などと割と厳しい意見が多い。この設定を活かしたエピソードもいくつかあるが、個人的にもわざわざ大仏でやる必要があったのかな、とは思う。

テンポ「3点」

 前提として、こういったギャグとシリアスが交互に来るタイプの作品は、ギャグに比べてシリアス展開は展開が遅くなることが多く、テンポが悪くなりがちである。

 本作も例外ではなく、むしろギャグにスピード感があり、シリアスは回想が多く時間がかかるためこの2つの展開のギャップがかなり大きい。

 そのため、全体的に見ればテンポが良いとは言えないのだが、ギャグ回のテンポの良さを考慮して3点。

 さらに言うなら、終盤は賛否両論。テンポを優先するならば、(詳しくはネタバレになるため言えないが)目的を達成した時点で終わった方がよかったのだが、一つ残らず要素を回収することを作者が優先したため、達成から数ヶ月ほど完結までかかってしまった。個人的にはスパッと終わらせた方が読み味がよかったと思う。

世界観「3点」

 特に言うべきことが無い感じ。ライトな身分差恋愛である。

 一応上述の通り、かぐや姫関連の設定があるが、基本的には設定の現実との相違を誤魔化すための言い訳に近い。

総合「17点」B +

 最近完結したことで話題の作品。基本的には王道のラブコメで、何も考えずに読むのであれば画力などきらら系やジャンプのラブコメに劣るが、濃すぎるキャラクターギャグとシリアスのギャップなど独特の面白さがある。

 特に触れなかったが、アニメの出来も素晴らしいので必見。特に2期OP映像は初見の際感動したほどに完成されている。

 コミックスはまだだが、原作は完結したのでこの機会に読んでみるのもいいだろう。12月発売の最終巻で全28巻となるので、一気読にも丁度いい量である。